カブール・シャーヒ朝の牛と騎士のコイン

  
 初期のジタル銀貨
3.4g 18.0mm
  
 末期のジタル銅貨
3.4g 15.6mm

 9世紀、現在のアフガニスタンの首都カブールを中心に「シャーヒ朝(Kabul Shahi/Hindu Shahis)」と呼ばれる国ができました。 ガンダーラ地方を支配し、西側のイスラームの勢力と時に戦い、時に交易して栄えていた、ヒンドゥー教の王国です。
 この国が発行した銀貨は、ジタル(Jital)コインと呼ばれ、牛と騎士の面白いデザインです。 まずは、上の2枚のコインの、特に上のコインを見ながら以下の説明文を読んでください。

    
サカ王朝 アゼス1世の銀貨 紀元前1世紀
 表面は、ヒンドゥー教で聖なる動物とされる牛が寝そべっています。 左に顔、中央部に何かを背負っている背中、右に大きな尻が見えます。 上部にはナーガリー文字で "Sri Spalapatideva" と書かれています。 これが王などの個人名か、造幣を担当する職名なのかは知られていません。 (ナーガリー文字は、現在のインドのデーバ・ナーガリー文字の原形です)。 
 裏面は、長い槍を持って馬に乗った騎士です。 デザインは紀元前後にこの地で栄えたサカ王朝のアゼス1世の銀貨をまねているようにも見えます。 馬と騎士の姿がはっきり分ります。
 (なお、騎士の図が表面、牛の図が裏面、としている書物もあります。)

 この銀貨は、北インドの民間でもかなり流布したようで、インダス川流域や、はるか東ヨーロッパでも発見されることがあるそうです。 また、この王朝は11世紀に滅びましたが、その後も歴代の王朝がこのコインを模したコインを発行し、それは12~13世紀まで続けられました。 しかし、銀貨の銀品位はだんだん劣化し、ビロン(劣位銀貨)となり、やがて完全な銅貨となっています。 デザインも一層抽象化され、愉快にさえ見えます。 上の2枚のコインをじっくり見比べてみてください。 これが騎士と牛の姿とはなかなか判別つきにくいものです。 数百年の歴史による変化です。

 2025.11.1